お運びありがとうございます。
先日、電車に乗っていたときのことですが、途中の駅から六〇代半ばと推察される女性二人が乗ってきて、わたしの隣に座りはりました。仲の良いお友達らしく、大きな声で話をしておられます。
最初は誰か共通のお知り合いの話で盛り上がっておられましたが、やがて一方の女性が、
「ちょっと、あんた知ってる?吉永小百合て七〇歳らしいで・・・」
「エエーッ、ほんまかいな。負けてられへんわあ!」
「せやろう!」
不意を突かれたわたしは言葉もなく、ただ電車の床の模様を眺めておりました。
・・・負けられへんということは、つまり勝つか引き分けるということですか・・・。
そもそも現時点で「勝ち負けを論じる」ということは、例えば四〇歳や五〇歳のときに「ある程度同じようなレベルにあった」ということが前提ではないでしょうか。
しかるに、わたしなりに冷静に判断して、出産直後はともかくとして、お二人が小百合さんのライバルであったことは無かったかと思われます。
もとより、そのこと自体は決して非難されるようなことではありません。なにせ相手は吉永小百合さんなんですから、大抵の人はボロ負けなんです。
むしろわたしの驚きは、「そんなもん100メートル離れて見たら一緒やんかぁ」みたいな、神をも恐れぬ楽観主義にあります。
お二人は、その後も次々と話題を変えておしゃべりを続けておられます。稀代の美人女優に対抗するという難題はすでに忘れ去られ、痕跡すらありません。
彼女たちの真骨頂は、まさにこの辺りにあるのでしょう。
寿命は負けないと思います。
( 山 )