らくてん会

らくてん会は西成寄席のお世話とアマチュア落語・演芸のサークルです。

◎口上(第71回)

◎口上(第71回)

お運びありがとうございます。

 少し前ですが、今年の8月、暑い盛りに、わたくしが仕事帰りの電車に乗っていたときのことです。

 ご存知でしょうか、「ニュートラム」という、高架の上を走って「住之江公園」と「コスモスクエア」を結ぶ市営の電車がございます。この電車、自動運転で運転士も車掌さんも乗っておりません。

 小さめの車両で3両編成ですが、通勤時間帯は本数も多く、夕刻のこの時間帯の 「コスモスクエア」行きはたいてい空いています。その日も、ゆっくりと座席に座ることができました。

 高架の高さがかなり高いので、走行中の景色もなかなか結構でして、当日もちょうど日没直前の大きな太陽が南港の海にかかる、そんな絵のような夕景が車窓に切り取られているのを、おそらくほとんどの乗客が眺めるともなく眺めていたと思います。車内は冷房がほど良くきいています。

 わたくの向かいに座っていた60歳代と思われる男性。こちらも仕事帰りの様子ですが、ひざに上に置いたショルダーバッグのファスナーを開けゴソゴソしていると思ったら、やおら缶ビールを一本取り出し、プシュっとあけてグビグビと飲み始めました。

 マナーとしてはいささか…ということはありましたが、ガラ空きの車内、夕焼け、一日の仕事を終えたこと、ご本人にはそれ以外のこともあったかも知れませんが、家まで待てずに一杯のむにふさわしい理由はあったように思います。また、そう思わせるようなある種の生真面目さが漂うひとでした。

 うまそうに飲みますなあとチラチラ見ていたら、今度は同じバッグから真っ赤なトマトをひとつ取りだし、大きくかぶって、すかさずまたビールを飲みます。

 これは、たまらん。家まで5分の最寄り駅に着いたわたしは駅前のスーパーでビールとトマトを買いました。歩きながらとも思いましたが、やはり一番おいしいタイミングは過ぎていたようで、結局家まで持ち帰りました。やっぱり、真面目で正直な人の上にシアワセは降りてくるようです。   (山)

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